〜友田晶子の“新”ラク学講座〜

ジャンシス・ロビンソン 特別セミナー

2016.03.25

 

マスター・オブ・ワインの称号を持つ英国人ワインジャーナリスト、ジャンシス・ロビンソン女史の特別セミナーが2016年3月7日(月)に行われました。セミナーのテーマは『この10年のワイン生産地の変化、そして今後10年の予測』。ワインのプロにとってもワインファンにとっても興味深い内容でした。
ここでセミナーのポイントをまとめてみましょう。

 

畑の個性をワインに生かす

40年間ワインビジネスをしている女史にとって、ワインはこの10年間は驚くほど飛躍的に変化しているとか。
20世紀中盤は、農業においても醸造においてもモダンテクノロジーを駆使し大量に生産するという、とにかく量の勝負でした。
20世紀後半は、欧州=クラシックカントリーに対する、チリやオーストラリアなどいわゆるニューカントリーが増加し、温暖な地域で、オークバレルを使用するワインが増えました。その味わいは、高アルコールのうえにとても濃縮された味わいで、オークの香味の強いタイプでした。これをブラインドテイスティングによって評価し、大柄なワインが好まれていました。

今現在は、これらのタイプの反対バージョンに注目が集まっています。
さらに、今までは醸造のテクニック重視だったのが、畑(より小さな区画)の個性をワインに表現することにシフトしているといいます。ワインメーカーのニュージェネレーションは父の時代(土を殺してしまう化学物質を多く使用した時代)と異なる手法を目指し、むしろ祖父の時代(自然重視)に戻り、ビオディナミや有機栽培に戻りつつあるようです。

また、ここ10年のトレンドは、バラエタル(品種)名ではなく、産地名が重要視される傾向にあります。
シングルヴィンヤード=単一畑やさらに細かいパーセル(区画)ごとにその個性を把握し、ボトル(ワイン)にまで生かそうとする造り手が増えました。さらに、既存のワイン法(たとえばAOCなど)は重要だが逆行することも辞さないという若い造り手(特にフランス)が増えています(友田注:日本酒にも同じことが言えるようです)。スペインのDOリオハ、DOカバは法の規則が緩いため、自分たちで作ることにトライしやすい地域でもあり、おかげでいい畑も増えています。法律や格付けに沿うのではなく、伝統ワインと比べて味を決める方式で、それがたとえVin de France(最も低い格付け)であっても中身は非常に高品質ということがありうるのが昨今なのです。

 

土着品種の魅力再発見

また、70年代(40年前)は国際品種に注目が集まっていましたが、今は地ブドウ、土着品種に興味が変わりました。ちなみに2012年版の女史の著書「Wine Grapes: A Complete Guide to 1,368 Vine Varieties, including their Origins and Flavours」はタイトルにもあるように1368品種を掲載していますが、今は1500種が世界で使われています。顕著なのは、オーストラリア、南イタリア、ポルトガルなどで新たな品種が続々リリースされています。中国は75%がカベルネ・ソーヴィニヨンでこれは多少問題のような気がしますが、人気のグレース・ヴィンヤードはアリアニコで造り始めています。

 

アラスカ、ノルウェーがワイン産地!

ここ数年の問題として温暖化があげられますが、新しい産地として挙げられるのは、アラスカ、英国(スパークリングがとてもよく、かのテタンジェ社が英国でスパークリングワイン造り始めているとか)、ノルウェー(リースリングがいい)、スウェーデン、デンマーク、オランダ、ベルギー、ポーランドなど。(友田注:今までは寒すぎてブドウやワインができないとされて地域です)
そのほか、アジアも注目で、ミャンマー、カンボジアがあげられますし、香港はタックスフリーでワインビジネスのハブとして機能しています。そのほか、タヒチ、コスタ・リタなども挙げられます。また、伝統国フランスでは、ブルゴーニュのサントーバン、サンロマン、ペルナンベルジュレスのワインが非常によくなっています。ここも昔は涼しすぎるといわれていた場所なのです。

 

驚きの、中国、インドのブドウ畑増加比

また、ここ40年ほどの世界のワイン用ブドウの栽培増減をみてましょう。
1971年と2013年の比較で、最も変化があるのは中国です。1971年を1とすると2013年はなんと539倍です。続いてインド。1971年を1とすると114倍。次がニュージーランド。1971年を1.2で37倍。逆に減少傾向にあるのが、オーストラリア、日本、アルゼンチンなど環太平洋地域。さらに、伝統国のポルトガル、スペイン、フランス、ルーマニア、イタリア、ギリシャ、ブルガリア、ハンガリー、アルジェリア(友田注:戦争の影響があるのでしょう)。ちなみに、EUのブドウ畑減反政策が反映されてこの数字という結果かもしれません。また、フランス、ボルドーをはじめとしたフランスワイナリーの30社が現在中国資本であるのも時代を感じます。

 

ワインの民主化

今新たに言えるのは、「ワインの民主化(デモクラシー・オブ・ワイン)」でしょう。昔のようにワインは特権階級のものだけではありません。若者もSNSでワイン情報を世界中でシェアしていますし、ラベル検索のアプリなどだれもが便利に使えるツールがあふれています。これがワイン市場の今です。また、ワインはウイスキーやビールのようなビッグカンパニーが動かしている世界ではなく非常に細分化されていいます。比較的ビッグといえるのは、ムートンカデ、ブルーナン、マテウスなどかもしれません。ちなみに、ディアジオ(ロンドンに本社を置く世界ランキング1位のビッグ酒類メーカー)はワインディビジョンがクローズしたとか。

 

コルク、パッケージの変化でサステーナブル

これからのワイン市場は、好奇心旺盛で気取りのない消費者によって動かされていくでしょう。造り手は、祖父の時代(のワイン造り)に戻るけれども、同時に機械化も進み、ますます品質が向上していくでしょう。また、「パッケージの変化」が予想されます。なにしろ、ガラスのボトルは重く壊れやすいですから(友田注:私も大昔からこれが問題だと思っていました!)。たとえば、缶やパウチなどが使われるようになるはずです。これらは、ある意味、よりサステーナブルであるともいえるのです。そう、これからのワイン市場のキーワードは「サステーナビリティ」といえるのです。それも地球全体で考えることが最も重要です。また、今コルク企業が焦っているともいえます(友田注:コルクではなくスクリューキャップを取り入れるメーカーが増えましたね)。実はあのシャトー・マルゴーがスクリューキャップのチャレンジをしています。オーナーのポール・ポンタリエ氏とともに同ヴィンテージでテイスティングをしましたが、良しあしの結果はまだ出ていません(興味深いですね)。

 

また、さらに以下のことが言えるとのこと(友田注:箇条書きでご紹介しましょう)。

★赤ワインの生産が頭打ち

1、 温暖化(重たい味が受けなくなってきている)
2、 白ワインのほうが料理に合わせやすい(特にたくさんの料理が並ぶときなど)中国も白が増えてき始めた(中国は赤ワインの消費がほとんどだった)。
3、 ロゼ人気

★ヴィンテージの違いがなくなってきている

1、温暖化
2、よくないヴィンテージを上手に造る技術が生まれてきた
3、いつの時代もトップシャトーはいい畑を持っている

2011年は世界的に難しいヴィンテージでしたが、NAPAやオーストラリアなど本当に差が少ないといいます(友田注:確かに、ここ数年、いえ、この10年ほど、ワインのヴィンテージに差がないと感じていました。昔からいい造り手はバッドヴィンテージでも品質のいいワインを常に提供してきていましたからね)

 

以上がセミナーの内容です。

最後に、「ワインは毎日変化している。私も40年間頑張っています」と苦笑する姿はとてもチャーミングでした。また、日本で興味があるのは北海道のワインであり、もちろん甲州種には以前から注目しているそうです。イギリスの百貨店マークス&スペンサーは甲州ワインのPBを造り始めたというトピックも教えてくれました。
もうひとつ、日本酒に興味はあるかとの質問に、「ワインだけでも40年かかったのに、今から日本酒は無理がある」という少々正直なお答え。おっしゃってくだされば、日本酒のポイント、お話ししますのに・・・、ジャンシスさん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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