では、そもそも、ソムリエとはどんな仕事なんでしょうか。
「テイスティングコメントがうまい人」「ブラインドでワインが当てられる人」ではありません。
ソムリエ業務の基本は「ワインをはじめとした飲み物全般を取り扱い」それを「販売し、売り上げを向上する」ことです。売上向上のためには、お客様に伝わりやすいワインの表現や料理とのおいしい組み合わせを提案する力も必要ですが、それ以上に重要なことは、在庫管理能力や販売促進のアイディア力、経営的なマネジメント力、さらには情報収集や日々の自己研鑽といったことがあげられます。
先日行われた日本ソムリエ協会主催の勉強会の中でも「ソムリエの仕事の80%はバックヤードにある/ジェラール・マルジョン氏」「ソムリエはノーブルなセールスマンである/ジェラール・バッセ氏」「100のワインを知っているより、100人のお客様を知っている方が価値がある/田崎真也氏」などの言葉が紹介されていました。ソムリエはワインを主とする飲料の提供者であり販売人であるのです。ブラインドでワインを当てて喜ぶのはあくまでワイン愛好家なのです。
さて、ソムリエの仕事はワインが主と書きましたが、日本で働くソムリエならば、日本酒や焼酎、いわゆる和酒、日本の國酒のことが分かってないければそれはもう失格だと思います。これは私がワインの仕事を始めた約30年前から感じていたことです。しかし、不思議なことにワインのソムリエで日本酒のことを熟知し、素敵なサービスで日本酒を提供してくれる人は、実に少なかったですし、今も思いのほか少ないように思います。もちろん、ソムリエが活躍するフレンチやイタリアンでは、日本酒の取り扱いが基本ないので致し方ないのですが、最近は洋食でも和酒を置く店も増えてきましたし、海外からのお客様もそういった店も日本酒を飲んでみたいと希望する人がいます。
しかし、なかなかそれに対応できる技術を持つソムリエが登場していないのが現状。残念ながら勉強不足も否めません。つい数年前に、有名ソムリエ数名が酒類総合研究所主催の特別な日本酒講座に参加し、資格試験にトライするという機会がありました。私も参加しましたが、彼らはことごとく不合格でした。とくにソムリエにとって日本酒の「ききしゅ」が難しいのです。運よく私は「ききしゅ」の訓練をしていましたのでなんとか合格しましたが、同じ飲料市場にある二つなのにそういった技術は違うのです。面白い、いや、難しいものです。
ただ、日本酒の「ききしゅ」のポイントは、製造目線であり飲み手目線ではありません。製造上の欠点を見つけることが重要であり、おいしく楽しく飲んでもらうためのものではありません。ワインソムリエが日本酒をサービスするならば、ソムリエらしいテイスティングをもとに、日本酒の欠点ではなく、「消費者に分かりやすい香りや味わい」「おいしい料理との組み合わせ」「お酒が持つ歴史やストーリー」をお客さまに伝えるべきです。
日本酒サービスの世界では、逆にそういった提供を全くしてきませんでしたので、ワインソムリエのサービス技術が日本酒世界に広まったらこれほどいいことはありません。日本酒提供の世界でそこが欠けていたのは明白なのですから。日本ソムリエ協会の新しい資格「SAKE Diploma」も30年近い歴史を持ち進化してきた「日本酒きき酒師」も、日本酒にとって、日本の飲食業界にとって、日本人みんなにとって、役立つものであってほしいと願います。